"絆" KIZUNAプロジェクト  2024 報告


 
Peace Field Japanは、2024年8月10日〜15日に、“絆” KIZUNA NEXT 2024 〜里山から学ぶ「平和学」〜を実施しました。中東情勢のさらなる悪化により、イスラエル人、パレスチナ人の参加が難しくなったため、日本の学生を対象に行いました。里山のライフスタイル、持続可能性、地域の課題解決の取り組みなどに関する体験活動を通して、持続可能性への理解を深め、自分なりの「平和」のあり方を見出すことで、持続可能で平和な社会の実現に貢献する若者=Peace Builderを育成し、最初の一歩を踏み出すきっかけを提供しました。

 また、パレスチナ人の教育者を招聘し、Environmental Peace Buildingの取り組みと、パレスチナの環境、文化、伝統、暮らし、アイデンティティついての講義やシェアリングを行い、体験からの学びを、パレスチナにおける持続可能な社会、持続可能な平和のあり方の視点で捉えるようにしました。

 2020年から、プログラムの柱の一つとして構築してきた、対話形式のワークショップを毎日行い、日本の里山コミュニティからの学びをパレスチナ、ひいては世界の他地域につなげ、自分なりの持続可能な平和のあり方を考えました。
 
 
 

プログラム概要

 
●期 間:2024年8月10日(土)〜 15日(木)(台風のため、当初の予定から一日
短縮)
●場 所:山梨県小菅村
●参加者 :日本の大学生7人 (オブザーバー参加1人)

●主 催 : 特定非営利活動法人 Peace Field Japan
●助 成 : 公益財団法人三菱UFJ国際財団
●協 賛 : 横浜南ロータリークラブ、(有)アオキエアコンディショニング
●物品協賛:株式会社東あられ本鋪
●ご寄付(KIZUNAサポーター):
池川尚志さん 岩本知恵美さん 浦崎笑子さん 遠藤真伊さん 大澤真由子さん 太田敦之さん 太田和代さん 落合真里奈さん 蒲隆夫さん 蒲田尚史さん 河合束さん 川﨑智晴さん 川崎ロータリークラブ 岸厚子さん 久米真浩さん 小林琴里さん 紺野美沙子さん 颯田裕彦さん 宍戸聖造さん 杉浦武胤さん 鈴木康昭さん 高橋健太さん 武田瑞穂さん 立山良司さん 谷口明奏さん 西山由芙さん 野渡和義さん 橋本真理さん 羽子田直人さん 福田あつ美さん 藤野千尋さん 水谷透さん 安田純矢さん 矢田重明さん 合同会社Sauna&Village

●物品寄付:鹿沼正さん、高岸英行さん、中澤幸枝さん

●ご協力いただいた方々:
 小菅村:
 役場: 源流振興課 久住侑士さん、細川雅之さん
 長作地区:守重敏夫さん 守重廣子さん   
 NPO法人源流みらい: 佐藤英敏さん
 株式会社源 寺田寛さん 福田あつ美さん
 
●ボランティアスタッフ:青山 凜 安達奏音 石橋真里奈 梅津大聖 浦崎笑子 菊池紗希子 小林琴里 鈴木はるひ 田内大暉 武田瑞穂 塚原万葵 坪野谷知美 西山由芙 宮川晴海 福田あつ美 八木裕香 安田純矢

 

プログラム内容

 

8月10日

 参加者が寺子屋自然塾に到着。アイスブレイク、オリエンテーションの後
、KIZUNAプロジェクトの基本コンセプトを学ぶ「里山講座」を行いました。自然の循環の仕組み、自然との関係性によって成り立つ里山の暮らし、里山の価値、課題、小菅村の取り組み、里山と持続可能な社会のあり方など、プログラム中の様々な体験活動を行うにあたっての基本事項を学ぶ講座です。夜のシェアリングでは、講座で学んだ里山のコンセプトの復習と、翌日からの体験活動を通してもっと知りたいことを整理しました。ボランティアスタッフから、まずは五感を使って体験活動に取り組むようアドバイスがありました。
 夕方は、小菅で育ったニジマスの串刺しに挑戦しました。炭火焼きにしたニジマスの味は格別で、小菅の自然と清流があってこその恵みに感謝しました。初日の夕食は、ニジマスに加えて、小菅特産のこんにゃくや小菅野菜の料理。小菅の味を堪能しました。
 

8月11日

 午前中、長作地区を歩きながら、前日の里山講座で学んだ里山の暮らしや知恵、森の現状や獣害などの課題を確認しました。守重敏夫さん、廣子さんご夫妻の畑に到着後、そばまきを体験しました。KIZUNAプロジェクトが始まって以来代々の参加者がそばの実を撒いては収穫し、つながりを受け継いできたそばの実です。くわを使うのも初めてで、畝を一本作り、種子をまいて土をかぶせていく作業を体験し、その大変さを実感しました。ご夫妻が丹精込めて育てた野菜が、7月の雹で大きな被害を受けた話を聞き、野菜作りの大変さを知りました。また、自然の堆肥を使い、手で虫を取って野菜を育てている廣子さんの話に、野菜作りに対する愛情を感じ、自然にも人にも
よい野菜を作るには大変な努力が必要なことも知りました。唯一被害を受けなかったトマトを採らせていただき、そのおいしさに笑顔がこぼれました。寺子屋に戻る途中、神社の脇の川で水遊び。暑い中での畑仕事体験の後、最高のひと時でした。
 午後は、パレスチナで長年にわたり環境による平和構築の活動をしてきたズバイダ先生が、「環境による平和構築活動」について講義をしてくれました。パレスチナの環境、暮らし、文化、伝統、アイデンティティなど多岐にわたる話から、環境や土地が与えてくれる恵みに価値を見出し、人々が共に守ることで、持続可能なライフスタイルと平和がもたらされることを学びました。続いて、午前中の体験活動とズバイダ先生の講義から学んだことをさらに深めるTAIWAを行いました。
 

8月12日

 午前中は、森の中でマインドフルネスを行いました。清流の流れる音を聞きながら、五感を使って自然を感じました。寺子屋に戻り、そばうち体験を行いました。前年のKIZUNA参加者がまいて収穫したそばの実です。力を入れて生地をこね、薄く延ばし、交代で丁寧に切っていきました。自分で打ったそばの味は格別で、守重さんが愛情をこめて育てた野菜のてんぷらと一緒に食べ、地域で受け継がれてきた食文化とその地域ならではの環境とのつながりを感じました。 2回目のTAIWAでは、この日の体験を元に、テーマを各グループで設定し、話し合いました。考えが深まっていくと、共有したいことが増え、予定の時間を越えても対話が続きました。夕方は、ズバイダ先生にパレスチナのパンの作り方を教えてもらいました。パレスチナから持ってきてくれたオリーブオイルとタイムをふんだんに練り込んだ、パレスチナ伝統のパンです。穀物の粉から手でこねて作るのはそばも同じ。それぞれの地域独自の食文化がありながらも、共通点があることにも気づきました。焼き上げている間、香ばしい匂いが寺子屋中に広がり、初めて食べるパレスチナの味に舌鼓を打ちました。
 夜は、ズバイダ先生による”見えない水”(エコロジカルフットプリント)のワークショップを行いました。チョコレートひとカケに、どれだけの水が含まれているかのクイズ。カカオ豆を育て、輸送し、製造する工程で、膨大な水が使われていることがわかり、見えていないことがたくさんあることを理解しました。人も同じ。その人が生きている背景は見えていないものです。見えていることだけで人を判断してはいけないことに気づきました。また、ズバイダ先生がコーチングを兼ねたアクティビティもしてくれました。写真と言葉が書かれたカードを1枚選び、自分がなぜそのカードを選んだのかを発表しました。夢、笑顔、コミュニティ、信仰、回復力(レジリエン
ス)など、感じたこと、考えたことをもとに選んだ言葉、込めた想いは多様でした。
 

8月13日

 NPO法人源流みらいの佐藤英敏さんに、多摩川源流の森を案内していただきました。豊かな自然の森を歩きながら、様々な木のことを教えていただきました。小菅村の水が多摩川を流れて東京都民の飲み水になっていることから、小菅村の森の一部は、東京都水道局が管理する水源林になっていること、そのために、上流域の小菅村と下流域の東京都のつながりが深いことを教えていただきました。東京に住んでいる参加者は、日頃飲んでいる水が小菅村から来ていること、自分たちが飲んでいる水のために、小菅村が森の保全に取り組んでいることを知り、驚いていました。雄滝まで歩き、滝の水しぶきを浴びながら、豊かな森と清流を体で感じることができました。
 NPO法人源流みらいの事務所がある古民家でお昼休憩をとり、村の歴史を教えていただきました。地域活性化の拠点である道の駅を見学した後、源流の森保護の取り組みの一つとして建設された林業廃棄物処理施設を見学しました。細川さんが、生ゴミを堆肥にして袋詰めするまでの全工程を、一つ一つ詳しく説明してくれました。寺子屋自然塾の台所から持ってきた、自分たちの生ゴミもかくはん機に入れました。普段考えることもなかった、自分が出したゴミの行方に目をむけ、生ゴミの回収から堆肥にするまでの作業を細川さんが一人でやっておられることに驚き、自分たちの知らないところで、環境を守るために働いてくださっている方がいることを初めて認識しま
した。質問もたくさんさせていただき、印象深い見学となりました。
 寺子屋に戻り、今度はパレスチナの伝統料理、マックルーべ作りの体験です。ズバイダ先生に丸鶏の捌き方、まな板を使わない野菜の切り方を教えてもらい、下ごしらえをしました。炊き上がったマックルーべを大きな皿に鍋からひっくり返すと、大歓声があがりました。初めて食べるパレスチナを代表する伝統の味はとてもおいしく、お代わりが相次ぎ、ほとんど残りませんでした。マックルーべは、週末の昼食に家族そろって食べることが多く、大家族を大切にする暮らし、環境、土地、食文化につながりがあることを知り、アイデンティティの意味を考えました。夜は、3回目のTAIWAです。この日、小菅村の環境を守る取り組みについて多くを学び、パレスチナの伝統食文化体験から土地やアイデンティティについて深く考えたこともあり
、TAIWAは話が尽きることがありませんでした。
 

8月14日

 午前中は、守重敏夫さんと佐藤英敏さんにご指導いただき、森林管理作業を体験しました。今回は間伐の作業です。人が手を入れた森は、手を入れ続けないといけないこと、人口流出、高齢化で、先祖代々受け継いできた森を守ることが難しくなっている現実を知りました。一本の木を切るのも大変で、広大な森の手入れを定期的に行い、森を管理する作業がいかに大変かを実感しました。何本か木を倒し、枝をはらい、幹を1mくらいに切り揃えると、あいにくの雨。急いで寺子屋に戻り、お二人からさら
にお話を伺いました。 
午後は、福田さんのご指導により、小菅伝統の箸作りに挑戦しました。小菅で間伐したヒノキを使って、かんなの扱いに苦労しながら、思い思いに箸を作りました。最後に焼きペンで名前やイラストを入れて完成。
 大型台風の接近により、プログラムを1日早く切り上げることにしたため、プログラムを通して学んだことを整理してまとめ、さらにTAIWAで深め、翌日の成果発表の準備に取り掛かりました。
 この日の夕食は、再びパレスチナの伝統料理、フリーカです。ズバイダ先生が作ってくれました。フリーカは、麦を青いうちに収穫した穀類です。大好評で、あっという間に完食。
 夜は、村人トーク。数年前に小菅村に地域おこし協力隊として移住し、今は株式会社源に勤務している寺田さんに、学生時代から移住するまでのこと、今の仕事の内容や毎日の生活のことなど、ご自身のことと共に、村の暮らしを維持するための様々な取り組み、ビジョンも話していただきました。参加者にとっては、自分たちにこれから何ができるのかを考える機会になりました。トーク終了後も、学生、社会人のボランティアスタッフも一緒に、考えたことをもとに話が尽きず、寺田さんにも遅くまでお付き合いいただきました。
 
 

8月15日

 大型台風による影響を避けるため、最終日となりました。午前中は、ズバイダ先生に、パレスチナ伝統の石鹸作りを教えてもらいました。ズバイダ先生は、もともと女子中学校の理科の先生です。顧問をしていた環境クラブでは、オリーブオイルやハーブを使い、生徒たちと自然石鹸やリップバームなどを作っていました。将来家庭に入ることも多い女子生徒たちに、消費者としてだけではなく、生産者になって主体的に生きる姿勢をもつこと、また、理系への進学を促し、職業に就き、自分の人生を自分の力で歩むことのできる女子を育てることを目指していました。パレスチナでは、オリーブオイルから作る伝統の石鹸作りが受け継がれていて、ズバイダ先生は石鹸作りが盛んなナブルスの職人に教えてもらったそうです。今回は、オリーブオイルとグリセリンをベースにした2種類の石鹸を作りました。アロマオイルを入れたもの、インスタントコーヒーや緑茶を入れたものなど、幾つもの種類の石鹸を作りました。
 プログラム2日目にまいたそばが芽を出し、畑に見に行きました。自分でまいたそばの芽を見ることができて、感慨もひとしおです。守重ご夫妻にお世話をお願いすることになりますが、花を咲かせ、実になるのが待ち遠しい様子でした。
 午後は、TAIWAの手法でプログラムでの学びのまとめ。最後に、”持続可能な平和な社会を作るために何ができるのか”を各自発表しました。中東をはじめ、世界各地で暴力の応酬が続いている中、手の届かない政治や外交の”平和”ではなく、自分に近いところで自分ができることにフォーカスしました。発表を聞いたズバイダ先生は、大きな枠組で平和を語ることが多いが、自分に引き寄せて考えることが出発点だと締めくくってくれました。参加者たちは、これからも考え続け、行動していきたいと決意を新たにしました。
 多くのことを学び、考えた1週間はあっという間に過ぎ、名残惜しい気持ちで小菅村を後にしました。
 

参加者の感想

 自分はいろいろなものをもらってばかりなので、理想的な社会につながる何かを生み出したり、誰かに与えたりできるようになりたいと思いました。体験や対話を通して、豊かな自然環境があるからこそ、私たちが生きることができるから、私たちはそのような自然環境を守る必要があると思いました。
 
 いつも普通に生活する中で、気にしていなかったり、何気なく便利に使っているものにも誰かの努力があること、見えないつながりに支えられていることを学びました。
実際にお話を聞かなければ知らなかった、見えないつながり、見ようとしていなかったつながりが沢山あることに気づかされました。
 
 ズバイダ先生のワークショップやお話から感じたことは、パレスチナの人たちは自分が生きている環境(それは土地だけでなく家族など自分を取り巻くあらゆるもの)に対して、親しみや愛を持っているということです。共生というキーワードはプログラム中何度も出てきましたが、パレスチナの人たちにとっても共生という言葉は共通してキーワードになるのだと思います。そこに生きる人々の平穏をより強く祈ります。